私とルールメイキング
認定NPO法人カタリバさんの、ルールメイカー育成プロジェクト2021の実証事業校として、校則見直しに取り組んだこの1年間は、今までにないくらい悩み、葛藤し、試行錯誤と失敗の連続だった。その様な活動の中で、カタリバの事務局の皆さんやCNさん、研究員の方たちにサポートしていただいたことが本当に支になった。この1年間を振り返ってみる。
目次
1.生徒の主体性を育む
2.単なる校則見直しではないことの気づき
3.対話の難しさ
4.今後の課題
5.私自身の変化
生徒指導部長を任されて3年目が終わる頃、そろそろ真剣に"校則"と向き合わなければならないかも、と思っていた。これまでの私は、無我夢中に必死で上意下達な厳しい指導を続けてきた。生徒はその厳しい指導に従うことが当たり前で、生徒や保護者から不平不満があっても、仕方のないことだと自分に言い聞かせてきた。生徒や保護者との距離が離れていくことにも気付かぬようにしていたのかもしれない。新型コロナウイルス感染症が蔓延し、社会の価値観が変わり、色々なことを考えさせられていた時このプロジェクトに出会った。そこから私の考え方が変わっていった。
生徒の主体性を育む
生徒はとても"素直で真面目でいい子"たち。言われたことはちゃんとやるのだが、指示待ちが多い。教師は○か×かを教え、間違いは許されないし、失敗も許されない。先生の言うことは全て正しいのか?と疑うことはなく、正解はないかも⁈または幾つも正解があるかもしれない⁈と言う考え方は教えられていない。生徒は15年間そういう教育を受けてきたとしたら、"主体的に"といっても無理だ。
ルールメイキング委員会を発足した1年前、生徒たちは「先生、どうしたらいいですか?」と私に言っていたが、今では「私はこうしたら良いと思うのですが、どうでしょうか、先生はどう思いますか?」と変わっていた。成長したな〜と思った瞬間だった。ルールメイキング委員会は、先生と生徒、先輩後輩、みんながフラットに話せる場にしよう!と決めていた。みんなが自由に話せるように、みんなの意見をちゃんと聞き、批判はしないで対話する、と、生徒たち自らがルールを決めたのだ。私は、そんな生徒たちが活動の中で提案するチャレンジを潰したくなかったので、どんな提案でも否定せず「いいじゃん、やってみたら!」と勧めるようにした。もしかすると失敗するかも、あるいはこれは間違いなくダメかもと思っても、まずは生徒にやらせてみて、ダメならまた考えればいいいし、失敗したからこそ気づくし、失敗から学ぶことは沢山あって大切なことだと考え、私がレールを敷くのではなく生徒たちが自らが敷いたレールを走らせてみようと思った。案の定、この一年間は失敗だらけだったが、それでも生徒たちは挫けず考え、前向きに取り組んでいた。私の方が挫けそうになることが多かったかもしれない。生徒たちは強く頼もしく成長しているし、主体性が育まれていることを確信している。
生徒の主体性を育てるためには先生も主体的になるべきだと思うが、実は私自身が指示待ちで、例年通りが楽で、校則に頼った指導しかしていないことに気づき、生徒指導の本質を考えさせられた。ルールメイキング委員会の方針は、批判的な意見も少なくなかったが、生徒の主体性を育むためには、生徒を信じ失敗を受け入れ何度でも挑戦させることが必要だと思った。
単なる校則見直しではないことの気づき
ある日、"フェードカット"についての議論になった。似ているがツーブロではないし、本校の校則の"奇抜な髪型は禁止"の"奇抜"の基準が曖昧だから指導が難しい。そこで"奇抜"の議論となった。髪型の問題だけではなく、ジェンダー平等についても意見が出た。おそらく時間があればあっただけ、議論は続いたのではないかと思うくらい白熱した。多くのいろんな意見があったのだが、結局"育てたい生徒像"や学校目標により、校則の考え方は大きく変わってくると言う結論だったように思う。学校の将来像を改めて考えることが先決、その上で校則のあり方を考えるべきだ。この取り組みは単なる校則見直しではなく学校改革だと考えさせられた。
対話の難しさ
1年間取り組んできて、感じたことは対話が難しいということだ。生徒と先生、先生と先生の、会話ではなく議論でもなく対話。生徒を目の前にすると、どうしても指導になってしまう。対話ってなんだろう、どうしたら対話ができるんだろうといつも考えている。"対話とは相手を他者として受け入れ変化しようとすること"自分は正しいことを知っていると思いがちな集団だから、対話が極端に不足しているし、必要ない、したくないと思われているのではないか。対話は会話とは違う。議論や討論でもない。お互いが変化することが目標。まずは自分自身との対話をもち、対話スキルを高めていき、そしてお互いを他者として受け入れ、認め合える環境にできたら良いと思う。
今後の課題
最大の課題は全校の巻き込みだ。全校生徒へのアンケート、先生へのインタビュー、オープンカイギ、プレゼン会などを行ってきたが、多くの生徒は自分ごととして捉えず他人ごとで、委員会の人が頑張ればいい、という風潮が否めない。委員会の生徒たちは、強制ではなく自主的主体的に参加してほしいという思いがあったが、それは難しかった。次年度は、LHRで各クラスで校則について先生と生徒が本音を語り合う時間を作り、先生方と対話を重ねることを重視したいと生徒たちは考えている。その結果、誰もが納得できる校則にしたい。私は生徒のチャレンジを止めることなく、見守り応援していきたいと思っている。大切なことは生徒を信じること、間違えてもいいと言えること。そしてより良い校則に見直し、みんなが笑顔で幸せに過ごせる清風高校にしたい。
私自身の変化
6月のキックオフ会で、私は生徒たちに本音を語った。みんなで車座になり膝を突き合わせて、この取り組みの思いをぶつけた時、自然と出てきた言葉だった。その後、生徒や保護者との心の距離がグッと縮まった気がする。生徒と廊下でのすれ違いざまの挨拶に笑顔があり、保護者との会話の中にも"VS"がなくなったように感じている。心が軽くなった。それと同時にこの取り組みをもっと前に進めなければならない責任も大きくなった。たちはだかる多くの壁を乗り越え、生徒と共に悩み考え、頑張っていこうと思っている。今年度は先進事例校として、カタリバさんのサポートを受けることになっているので、生徒や先生の変化、学校のより良い変化を報告できたら嬉しく思う。
生徒指導部長 小瀧智美